司法試験にのぞむある若者へのコメント

gfujioka2004-09-20

二年前に大学を卒業したけど、それまでやりたかった事が、ほぼ実現不可能と、キリを付けなければならない状況に陥った若者と知り合いました。彼は、大学でスペイン語を教えている女房の教え子で、スペインに行き頭を冷やそうと計画していました。でも、スペイン語がそれほど早く上達する訳もなく、私は彼がスペインに留学する事に反対でした。若者の間で麻薬が蔓延するスペインに目的も無く留学するのは危険過ぎると思ったのです。
現在彼は、農業を目指して、本当に燃えています。苺農家として一人立ちしようと努力しています。彼の周りには、貴方様に司法を目指している人、パイロットになった人、テレビ局のディレクターになった人、警察官になった人、そして、多くの同教生は、修士課程、博士課程で勉強を続けています。でも、半数、あるいはそれ以上の人は、当方の目からは実社会に出る時を遅らせるための時間稼ぎをしている様に思えてしかたありません。就職した人でも、それも、就活の勝利者とも言えるべき、有名企業に就職が出来た人も、そこでの状況に満足している様には見えません。少なくとも、私が支援している、新規就農者である彼ほどは、満足して働いていません。彼の労働環境は過酷です。太陽と共に働き始め、それも寒さ、暑さがもろに応える状況での肉体労働です。しかも、夜には栽培技術、営農技術、販売システムの構築の勉強、専門家との話し合いが待っています。
借金の重圧もあります。施設の構築、最初の年で通常なら1000万円分位の設備投資をその十分の一位の金額で行ないました。(廃棄されていた施設を移築したり、無償で借りたいしたのです。その分、他人に頭を下げなければなりません。)どう考えてみても過大なストレスがかかっている状況で、休みもなく働き続けています。所が彼はとても明るいのです。その理由は、自分のしている仕事の必要な理由が明確な事と、将来を信ずる事が出来ているからです。
だから、彼の周りには、彼を助けようとボランティアで手伝ってくれる人で一杯です。二週間前も、苺苗の移植(苺の生産では最も重要なイベントの一つ)では二十人以上の手伝いに来ていました。昨年は、それより多くの人が来てくれました。今年は、多過ぎたので人を厳選して少なくなったのです。
彼らの平均で言うと、二つの点で、日本最高水準にあると言えます。その年齢、二十代の前半、今の農家では60代ですら、若手です。そして、学歴の高さ。少なくとも学士様でした。
このことで、貴方に何が言いたいかと言うと、まず体を動かす仕事をしてみると言う事です。仮想現実の世界ではなく、真にリアルな世界での仕事です。私はと言えば新聞記者、イタリア語、スペイン語の通訳、翻訳、プログラマー、本の編集者、株式投資と色々な方法で仕事をし、お金を稼いできましたが、そのどれもが、仮想現実の世界での仕事だった様に思えます。
今は、野菜や果樹を育てたり、鶏や山羊を飼っています。これらで生活費を稼ぐ事はできないかもしれませんが、動物や植物は現実の世界の住民です。私が、少しでも手を抜くと、萎れたり、怒ったり、反抗したり、お願いベースで甘えてみたり、様々な反応があります。私は、現実の手段を使い、それに応えなければなりません。そうしないと、事態は急速に悪化します。動物達とせっかく築いた信頼関係が崩れたり、植物は実をつけなかったり、枯れたりするのです。
貴方も、現実の世界で汗をかくことをしたら、思考の振動にも似た、エネルギーだけを使い、成果のでない今の状況から抜け出れるのではないかと思います。実際、私の周りでは、多くの若者が肉体労働を通じて、暗くて悲観的な自己像を捨て、楽観的な世界観を持つ事に成功しています。
多分、人間のDNAには、肉体労働をするようにプログラムされていて、仮想現実の労働は未だ、自然な活動とは見なされていないのでしょう。
それでは、貴方が毎日わくわくして生活ができるように、願いながら、このコメントを終えます。